マルチスポーツとは

マルチスポーツとは、文字通り「1つ以上のスポーツに関わること」である。複数のスポーツ種目を通じてさまざまな身体活動を行うことを指す。オリンピックやワールドカップレベルで活躍するスポーツ先進国といえば、G7(主要先進7カ国)に代表されるアメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリアに加えて、オーストラリアやニュージーランド、そして冬季五輪でメダル獲得数上位国のノルウェーやスウェーデンなどがあげられる。これらの国々では「複数のスポーツをやることが良いこと」だと広く浸透している。部活動はシーズン制になっていて、季節ごとに所属する種目、チーム等を変えてスポーツを楽しんでいる。アメリカでは1年間で3シーズンに分かれ、オーストラリアやニュージーランドは2シーズンに分かれている。例えば、「オールブラックス」に代表されるラグビー王国ニュージーランドですらラグビーを1年中することはできない。ラグビーシーズンの冬が終わると国中からラグビーポールが撤去され、サマーシーズンの人気スポーツ「クリケット」に一変する。そのような環境のため、ニュージーランドではオールブラックスの選手でありクリケットの代表選手として活躍するような、ラグビー以外の他競技で国際大会に出場するアスリートが多数存在する。
自分自身の経験

私は野球の指導者だった父親の影響を受けて小学2年生から地元のスポーツ少年団で軟式野球を始めた。すぐに、投げたり捕ったりする気持ちよさ、バットでボールを打った時の爽快感にのめり込んでいった。小学4年生の頃から試合でも起用してもらえるようになり、さらに楽しさは膨らんでいった。6年生の時にはキャプテンを任され、野球という競技スポーツの楽しさだけでなく、組織として力を発揮するためのチームワークも学んでいった。一方、幼少期からサッカーが大好きで、小学生の頃には朝7時に学校に行ってサッカーをして、大休憩にはサッカーをして、放課後には公園に集まってサッカーをするような子供だった。さらに、ひとつ上の姉の影響で小学2年生から3年生までミニバスケットボールにも通っていた。足が速いという理由で、小学3年生ながら6年生の女の子と一緒にプレーをさせてもらえることもあった。このように、私の小学生時代は平日は朝から晩までサッカーをして、曜日によっては夕方バスケットボールをして、土日は野球に没頭するという文字通り「マルチスポーツ」を実践していたのだ。
スポーツのルーツ

そもそもスポーツの始まりは何だったのだろう。もともとは、人々が狩猟や生活をする中で、身体能力や技術を鍛える必要性から、競争的な要素が生まれたと考えられている。古代の人々は狩猟や戦闘のために投擲や走りなどの能力を伸ばし競う活動を行なっていた。また、多くの文化では宗教的な儀式や祭典の一環としてスポーツが行われていた。代表的なものが、皆さんもよくご存知の古代ギリシャで行われていた「オリンピアの祭典競技」だ。紀元前9世紀頃から始まったとされるこの古代オリンピックは、全能の神ゼウスをはじめ多くの神々を崇めるための地域における体育や芸術の競技祭だった。紀元前1世紀頃の古代ローマ帝国では、「剣闘士(グラディエーター)」が見世物・興行いわゆるエンターテイメントとして人気になった。戦争捕虜や奴隷、志願する自由民を訓練して、コロッセオ(円形闘技場)で戦わせる。その際には、前日晩餐会や開会前のパレードなど現代に通じる大会運営も行われていた。近代スポーツのルーツは、19世紀に入ってからだ。イギリスで起こった産業革命による都市化は、人々の生活環境の変化や余暇の増加をもたらした。都市化に伴い、人々は労働時間が減少し、余暇活動に時間を費やすことができるようになった。この結果、スポーツや娯楽活動が重要な役割を果たすようになった。さらに、社会階級の間での交流や競争が活発化した。スポーツは、社会的地位や身分の枠を超えた交流の場として重要な役割を果たすようになった。特に、クリケットやラグビーなどのスポーツは、イギリスの上流階級と中流階級の間で人気を博した。
日本のスポーツの歴史

日本におけるスポーツの始まりも似たようなところがある。古代の日本では、弓道や剣道、相撲、武芸などがスポーツ的な要素を持つ活動として行われていた。これらの活動は戦闘技術の訓練として始まり、後に娯楽や身体の鍛錬としても重視されるようになった。幕末期から明治維新にかけて、日本は西洋の文化や技術を積極的に取り入れるようになった。この時期には、西洋式の体操やスポーツが導入され、欧米からの体操教官やスポーツ指導者が招かれるようになった。明治時代には、西洋の体育教育の理念が日本の学校教育に取り入れられ、体操や球技などのスポーツが学校教育の一環として普及した。これにより、多くの日本人がスポーツに触れる機会が増え、スポーツ文化が発展していった。
しかし、次第にスポーツによる人間形成の意味合いが戦争を通じて変わっていく。教育の目的を「知育」「徳育」「体育」に分けたことから始まり、体育の課題は外国人に負けないように日本人の体格・体力を育成させ、優秀な兵士を生産することであったと記録されている。さらに、戦後になると高度経済成長を経て、製造業を中心とした多くの労働者が工場モデルで育成され「1つのことをしっかりやり遂げる」という方法で世界的にも力を持つ国になった。この成功体験が日本のスポーツ界における教育でも大きな影響を受け、高等学校では運動部活動に継続的に参加し「3年間同じ部活で頑張る」ことが就職を有利にするという指導が定着していった。
マルチスポーツの魅力

マルチスポーツの魅力は、①運動感覚が鍛えられる、②精神的・社会的な発達が促進される、③調和・適合力を向上させることである。ニュージーランドでは、マルチスポーツのメリットを国が先陣を切って発信している。①については、多くの異なる動作パターンや戦術的な体験をすることで、スキルが向上する。②は、多様な指導スタイルやスポーツ文化に触れることにより、精神的・社会的な発達が促進される。③は、多くのスポーツを試すこと、経験することで自分に合った正しいスポーツは何かが見つけやすくなる。
日本では子供にスポーツの早期専門化をさせることがままある。小学生段階から多くのスポーツクラブが存在し、全国大会が繰り広げられ、勝利のために多くの時間を練習に費やす。そしてそれは、保護者や指導者のエゴによるところが大きいのが問題である。さらに、アメリカの権威ある整形外科から発信されている動画では、「同じスポーツを幼少期からプレーしている子供たちは怪我のリスクが高く、休息時間が得られず、身体機能が成長、回復できない」「早期専門化によって子供たちの燃え尽き症候群や、スポーツを一生やらなくなることを助長している」と述べている。
実は日本人にもマルチスポーツ選手はいる。元プロ野球選手の松井秀喜氏は小学生時代に柔道やっていて、石川県の強化指定選手に選ばれている。大谷翔平選手は親の影響でバドミントンに打ち込んでいた。テニスの錦織圭選手は小学校6年間、ずっとサッカーをやっていた。ゴルフの渋野日向子選手は中学では軟式野球部に入るくらい小学生の時はソフトボールを楽しんでいた。このように野球やテニス、ゴルフにも、数え切れないほどの日本人マルチスポーツアスリートが活躍している。他にも世界的に活躍したマルチスポーツプレーヤーのトップアスリートたちが、その重要性について発信している。
「子供の頃、多くの異なるスポーツを試し、その全てを楽しんできた。その時は気付かなかったけれど、この経験が基本的な動作スキルを与えてくれ、15歳になって専門的にプレーするようになってから国際的な選手へと成長させてくれた。」Jane Sixsmith(ホッケーイギリス代表)
「12か13歳になるまで、ゴルフより野球をやっていた。他にも、アメフト、バスケットボール、サッカーもね。それによって、よいチームメイトになる術を学び、アスリートになろうとしているゴルファーではなく、アスリートとしてゴルフを愛することを学んだんだ。」Jordan Spieth(アメリカプロゴルファー)
「異なった種目を通してのトレーニング、異なるコーチングスタイル、異なるロッカールーム、異なる練習環境、異なるチャレンジ。これらはより競争力があり円熟した人間を育てると思う。」Dabo Swinney(アメリカンフットボールコーチ)
PGAとマルチスポーツ

PGA athleticsではマルチスポーツの考え方を基盤に様々な運動経験を取り入れていく。よくある体操教室や球技教室ではなく、それらも含めてすべての運動感覚を経験できるような「遊び」をしかけていく。これまでにも触れてきたように、もともとスポーツは祭りやエンターテイメント、余暇を楽しむためにはじまり発展してきた。しかし、戦争を背景とした体育教育と過激化した勝利至上主義の指導により、スポーツそのものを楽しめなくなっている一面があるように思う。特に幼少期にそのような指導をする必要はほとんど皆無だと考える。小学生(12歳頃)までは友達と一緒に、とことん外遊びで心と体を鍛える。中学生で様々なスポーツを経験していく中で、自分が本当にやりたいスポーツや自分に合っているスポーツを見つけていく。高校生でスポーツを専門化していく。このような環境を創出できれば、競技力の向上はもちろん、心からスポーツや運動を楽しめる素地、幅広い選択肢を持った人間的な成長を促すことができるのではないかと考える。そのためには、ゴールデンエイジである小学生までに基盤ができている必要があるので、PGA athleticsは全力で「遊ぶ」子供たちを応援する活動をしていく。
参考文献

マルチスポーツを科学する 著者 大山 高(帝京大学准教授)青娥書房 2023年4月18日 第1版第1刷発行

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