日本の部活動の現状

日本の部活動は学校教育において大きな役割を担ってきた。自身の経験からも、運動部活動に参加し、体力や技術の向上だけでなく、精神的な成長や社会性の発達など、多くの面でプラスの影響があった。日々練習を重ねることで、身体を鍛えるとともにスポーツをするのに必要なスキルや戦術を身につけることができた。また、チームメイトと協力し、共通の目標を達成するために努力することでチームワークの大切さを学び、コミュニケーション能力が身についた。さらに、時間を守り体調を良好に保つ自己管理能力や厳しい練習に耐える忍耐力など部活動から得たものあげればきりがない。しかし、近年は勝利至上主義による過度なプレッシャーや教員の働き方改革に係る時間の拘束が問題視されている。そのため最近では、部活動の時間短縮や週数回の活動に変更する学校が増えている。また、地域やボランティア団体との連携を深め、学校外の活動やクラブ活動を推進する動きも見られる。このような改革は、教育にどのような影響を与えることになるのだろうか。
部活動の歴史

わが国の中等学校における部活動の始まりは、一般的には明治20年代にみられる尋常中学校の校友会(学校によっては学友会等の名称が用いられた)を母体とする課外の活動であるとされている。具体的には、東京府尋常中学校(現在の東京都立日比谷高校)に明治23(1890)年 、全校生徒参加の学友会が創設され、その組織の一部として翌年3月に撃剣部が設けられ、続いて年内に遊泳部 、茶話会 、雑誌部 、漕艇部、運動部 、遠足部が設置された。しかし、厳密にみれば、中等学校の部活動の誕生はそれより更に頻ることができる。すなわち、東京府尋常中学校では学友会創設以前の明治18(1885)年頃(当時の校名は東京府中学校)、AS会と称する生徒による同校最初の自発的活動団体が存在した。AS会とは、athletic sportsの頭文字をとったもので、全校生徒の殆どが参加した。この会では、当初、上級生30~40名がベースボールやローンテニス、コロッケボール、操槍術、撃剣、柔道、その他の遊技運動を演習していた。その後、AS会の活動は進展し、運動会や遠足会、校外運動等も挙行されたが、やがて明治23(1890)年に学友会が創設されることにより解散した。さて、明治10年代末には、すでに高等教育機関において東京大学を筆頭にして、欧米から招聴されて来日した多くの外人教師や帰朝した多数の海外留学生等によって外来スポーツが導入・紹介され、有志学生の課外活動として定着しつつあった。当時、わが国における外来スポーツの普及は、有志学生・生徒の間にのみとどまり、それ以外の一般住民による愛好者は富裕な上流階級の間に散見できる程度に過ぎなかった。このように、わが国における外来スポーツの受容は、近代化をめざす国家の重要な担い手を育成する学校教育と結びつき、一般民衆不在の中で特権的な官僚や富裕な上流階級をめざすエリートとしての学生たちの自主的な課外活動としてなされていった。外来スポーツ普及のこのような系譜に立てば、中等学校の中でも、大学、専門学校、高等中学校や海軍兵学寮など軍人のエリート将校養成機関を含む高等教育機関の系列に連なり、比較的校数が僅少であり、知的エリートの俊英たちが学ぶ尋常中学校において部活動が先駆的に発達した理由もおのずから明らかであろう。
さて、先述のとおり、東京府中学校においては、AS会の組織を母体として各種の運動の活動が始まり、やがて間もなく明治23(1890)年に単一の母体としての学友会に統轄された。ここで注目しておきたいことは、出発当初の部活動は必ずしも今日のような一種目一部(クラブ)主義や一人一種目主義ではなく、AS会や以文会にみられるように有志生徒が寄り集まり、一人多種目参加で運動・文化活動を追求して楽しみ、それを通して仲間としての親睦を深めるものであったことである。つまり、勝利至上をめざした選手優先性の性格を帯びた部(クラブ)ではなく、運動・文化の愛好と親睦の団体という性格が強かったといえる。その後、多くの尋常中学校では校友会を母体として部活動を発展させるが、学校当事者は生徒の自治的活動が校外にまで及ぶことを恐れて、当初は無視または規制の態度をとっていた。しかし、部活動が進展するにつれて、部活動の教育的価値を認識し、部活動を学校の管理下に統合しようと努めた。一方、生徒の側も、時世の潮流を反映して若者としての荒々しい情熱や自主・自由の気概が横溢し、母校の校風発揚に向けて論議が高まっていった。このような師弟双方の気合いが合体して校友会を結成し、その組織を母体としてその後の部活動が発展していった。明治10年代にはスポーツは未だ遊戯として取り扱われ、運動系の部(倶楽部)活動は部員相互の技を競い合いながら遊びとして共に楽しむ面が強かった。当時、倶楽部とは字義どおり共に楽しむ集団であった。しかし、その後、部活動の教育的価値が教師に認識され、やがて奨励されるようになるにつれて部活動は活発化し、同時に質的に変化していく。 明治9(1886)年に中学校令が公布され、兵式体操が学校体育に取り入れられて以降、 個人よりも集団の訓練に重点がおかれるようになった。中学校令の起草に深く関与した森有礼文相が意図したものは、厳しい訓練と秩序を通して強健な身体を鍛えるとともに尚武の志や忠君愛国の心情を培養し、以て富国強兵と臣民形成を図るところにあった。部活動誕生当初の活動目的は、健康の保持・増進と活発の志気養成の両面に向けられていたが、やがて精神面の鍛練に重点が偏在するようになり、激しい練習の苦痛に耐え抜くことが人間形成に繋がるという教育的意味づけがなされるようになる。このように部活動は、誕生当初にみられたスポーツを遊びとして共に楽しむ段階から、所属する部や学校の名誉を至上のものとする集団精神酒養の段階へと徐々に変質しはじめ、部活動そのものの鍛練性、勇壮性の価値を重視する精神面の強化へ傾斜していくのである。
部活動の地域移行について

近年、少子化による児童生徒数の減少、児童生徒のニーズの多様化、教員数の減少と勤務負担増などを背景に、部活動の地域移行が進められている。最近になってよく取り上げられるようになったが、もともと1996年には中央教育審議会が「21世紀を展望した我が国の教育の在り方について(第一次答申)」における「学校のスリム化」の項目で運動部活動を地域社会に移行させる方向性を提示している。現在は具体的に、スポーツ庁と文化庁が2022年12月に策定したガイドラインに基づき、まずは2023年度から3年間かけて、「公立中学校」の「休日」の「運動部」の部活動を優先して、段階的に地域移行しようとしている。
地域移行によって、子どもと学校・教員の双方にメリットが期待されている。子どもにとっては、自分が通う学校だけでは人数が足りずにできなかった活動種目も、地域で複数校の生徒が集まれば可能になる場合がある。また、プロの指導が入ることによる子どもの技術向上も期待できる。学校の部活動は専門のスキルを持たない教員が指導しているケースが多いのに対して、地域ではスポーツクラブに所属する指導者や、公募によって選ばれた専門家から指導を受けられる可能性が広がる。さらに、地域移行がうまく進んで、中学生や高校生だけではなく、子どもから大人までを対象とする地域のクラブに育っていけば、学校段階が上がるときに種目やチームを変えなくてすむようになる。学校の教員にとってもメリットがある。文部科学省の調査によると、教員の約8割が部活動の顧問を担当しており、担当している部活動の約8割が週4日以上活動している。部活動の指導が教員の勤務時間を延ばす大きな原因の1つになっている。そのため、地域移行が進むことで、教員の勤務時間短縮や業務負荷の軽減につながることが期待されている。
地域移行は、いくつかのデメリットもある。一つめは、地域の受け皿の問題だ。移行した地域に適切な指導者がいない、練習場所がない、といった可能性がある。学校の部活動にあったのと同じ種目を指導できる人材を確保できるとは限らず、設置可能な種目が限られる。また、指導者や練習施設が遠方にしかない、といった問題が発生しやすくなる。二つめは、子どもたちの居場所が減ることだ。学校の友だちとの付き合いや、放課後や週末の時間を過ごすために部活動に参加している中学生も少なからずいる。そういう子どもは、学校に部活動があるから部活動に参加している。代わりのクラブや団体が地域にできたとしても、学校の部活動の代わりに入るとは限らない。そうなると、一部の子どもたちにとって大切な居場所がなくなってしまう可能性がある。三つめは、保護者の負担増だ。これまでは学校内の人材や設備を使っていたのが、外部の指導者や設備を使うことで費用が発生する。活動場所への送迎にもお金と時間がかかる。それらを保護者が負担することになれば、部活動が事実上有料化することと同じだ。さらに、家庭の経済状況によって活動に参加できない子どもが出ることもあり得る。四つめは、指導の過熱化だ。部活動の最大の意義はあくまでも教育的なものだ。将来にわたり続けるスポーツや趣味を見つけるきっかけづくりや、人格の形成などが目的で、勝負に勝つことが最終ゴールではない。しかし、地域移行により競技のプロが指導にあたることで、競技に勝つことにより重きを置くようになる可能性がある。その影響で、長時間の厳しい練習を課し指導が過熱し、本来の部活動の目的からそれてしまうこともあるかもしれない。
現代の部活動の課題

これまで学校の部活動は、学校教育の一環として、学校教員がほぼ無償で担ってきた。しかし、近年は教員の多忙化が大きな社会問題となっている。特に中学校では、本来は休日であるはずの土日に教員が部活動の指導をしていることが、長時間勤務の大きな要因の1つとなっている。また、少子化に伴ってバスケットボールやバレーボールなどの団体競技のチーム編成が難しい学校も出てきている。今後も子どもの数が減り続けることはほぼ確実で、これまでのような部活動の維持が難しくなると考えられている。実際、中体連の13〜15歳の運動部加盟人数は、2009年度の約233万人から、2018年度の約200万人と約13.1%減少している。さらに一定の減少率と人口動態推計を勘案すると、2048年度には約148万人へ。2009年から約36.7%が減少すると推計している。2018年度から推計しても約27%の加入人数が減ることとなる。さらに各都道府県の中学校体育連盟の、野球やサッカーなどおよそ30競技の運動部に入っている中学生の数を調査し、全体の生徒数と比較して、割合を「入部率」として算出した結果、全国平均は下がり続け、2022年は59.6%と、初めて60%を割り込んだことが判明した。そのような状況で、学校の部活動にも柔軟性が求められてきている。その一つが、人数不足のチームを救うための、複数校による合同チームの編成だ。合同チームは少子化の影響でニーズが増えている。日本中学校体育連盟によると、中体連への加盟生徒数は2001~19年度にかけて約64万人減った。これに伴い、19年度は全47都道府県で合同チームが結成され、その数は19競技の1674チーム。記録が残る01年度以降では最多で、15年度の748チームから2倍以上になった。
現在、中学校の6割の教員は、厚労省が定める「過労死ライン」(労災認定基準)である月80時間を超える残業をし、いつ倒れてもおかしくない異常な状況で働いている。また、教員の過重労働の最大の要因とされるのは部活動だ。OECDの国際調査を見ると、日本の中学校教員の1週間あたりの勤務時間は56.0時間と参加国中最長であるが、特に部活動指導などの「課外活動」は、参加国平均の1週間あたり1.9時間に対し、約4倍の7.5時間となっており、その差が顕著である。以上のようなデータから、私たちが当たり前だと思ってきた学校における部活動はこれまで同様の形を維持することは難しく新しい方法を模索していく必要がある。
PGA athleticsからの提案

PGA athleticsは、現状の打開策として「マルチスポーツ」を推進していくことが望ましいと考えている(別ページ:マルチスポーツについて)。小学生の時期に様々な運動やスポーツ、遊びを通して、多様な動きを経験することはその後の運動能力に大きく関わる。PGA athleticsでは、その多様な経験に着目した活動をゴールデンエイジ(3〜12歳)向けに行なっている。中学校の部活動でも、このようなマルチスポーツの考え方は生かすことができる。
1年を3か月ごとの4クールに分ける。春はバレー、夏はソフトボール、秋はバスケット、冬はサッカーなどのように期間を区切って活動を行う「マルチスポーツ部」をつくる。クールごとに節目となる大会を設けて練習の成果を発揮する場を設定する。
まずこの取り組みは、部員数減少により単独チームを作ることが難しいチームや少子化が顕著な地域の学校でも、メンバーを集めることが比較的簡単になる。同一のメンバーで4つの種目を行うことになるので、上記の例では11人いれば成り立つことになる。単独種目の部活動では、種目ごとに必要人数を集めなければならず、大会参加ができないチームでも、「マルチスポーツ部」にすることでその問題は解決する。また、教員の部活動に対する負担減にもつながる。3ヶ月という期間限定の活動になるので、これまで1年通して指導しなければならなかった部活動の時間が単純に4分の1まで削減できる。部活動の地域移行が進んでいるが、地域によっては受け皿や指導者不足でスムーズにいかないところもある。地域に移行することによって、学校での生活指導が困難になる場合もあると思う。そのようなケースでもこの「マルチスポーツ部」を取り入れれば解決につながる。そして大前提として、クラブ(倶楽部)の発祥当時の目的である、運動を楽しみ、仲間との親睦を深めるということを大切にする必要がある。小学生段階での競技専門化は明らかに時期尚早だが、中学生段階でも様々な経験をすることに重きを置いても十分に成長が望める。特に、人生100年時代と言われる現代では、ひとつのことを極めていくよりも、様々なことを経験し柔軟性をもつことの方が重要性を増してくるのではないかと考える。こうした考えからも、中学校に「マルチスポーツ部」をつくり、大会を創設することが少し先の未来の目標でもある。
参考文献
引用元:中等学校における部活動の発祥と位置付け 渡辺誠三
「ベネッセ教育総合研究所」教育用語解説 部活動地域移行
「部活動」は自由な選択へ!「教育の質」を高める新しいルールとは? 今野晴貴(NPO法人POSSE代表)
運動部に異変!?下がる入部率、あなたの都道府県は? 福原健(NHK)
『30』年後には運動部活動の生徒は半減する?! スポーツ庁Web広報マガジン「DEPORTARE」

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