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格差はなぜ生まれるのか

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昨今の日本のニュース

 最近話題になっている「闇バイト」や「詐欺」、「強盗殺人」の事件において、若者が関与するケースが増加している。特に、一都三県で連続して起こっている強盗事件が目を引く。8月末から9月3日まで被害が目立っていたのは、貴金属販売店や質店などだ。その後、さいたま市の住宅が被害に遭った9月18日以降は、個人宅への強盗が続く。そして、10月15日の横浜市青葉区の事件では、70代の住民が暴行され死亡した。10月17日の千葉県市川市の事件では、50代の住民が連れ去られ、監禁された。10月に横浜市青葉区で起きた事件。現金20万円が奪われ、住民の命も失われた。闇バイトに手を染めるのは、経済的な理由や好奇心、手軽に大金を稼ぎたいという心理から、若年層が多い傾向にある。特に10代後半から20代前半が中心だ。ここで気になってくるのが、これまでの強盗は数百万円から数千万円という大金を得ることが目的であったと思われるが、最近のニュースで報道される強盗は、数万円から数十万円とかつてよりも少額のケースが少なくないことだ。たった数万円。ともすれば、1週間一生懸命身体を動かして働けば稼げるお金のために逮捕されてしまい、人生を台無しにする若者が増加しているのは大きな問題だ。

闇バイトの構成

 闇バイトの構成は、事件の内容や組織の規模によって異なるが、一般的に以下の様な構成が考えられる。

  • 指示役: 犯罪を計画し、実行犯に指示を出す人物。
  • リクルーター: 闇バイトの求人をSNSなどで拡散し、実行犯を募集する人物。
  • 実行犯: 実際に犯罪を実行する人物。
  • 資金調達役: 犯罪に必要な資金を調達する人物。
  • 情報収集役: 犯行目標となる場所や人物の情報収集を行う人物。
  • 逃走車両の運転手: 犯罪後、実行犯を逃がすための運転手。

 闇バイトの仕組みとしては、 まずSNSや掲示板などで、高額報酬や簡単な作業といった甘い言葉で求人を募集する。そこに応募してきた人物の中から、実行犯として適任と判断される人物を選ぶ。実行犯に、犯行の場所や方法、持ち物などを詳細に指示する。実行犯が指示通りに犯罪を実行する。犯罪が成功した場合、実行犯に約束された報酬が支払われる。闇バイトの募集をかけている大元の組織については、特定の組織を断定することは非常に困難だ。なぜなら、闇バイトは、従来の暴力団のような厳格な組織構造を持たず、SNSなどを利用してゆるくつながった「匿名・流動型犯罪グループ」と呼ばれる形態をとることが多いからだ。しかし、暴力団など、他の犯罪組織から資金提供を受けている可能性も考えられ、知らず知らずのうちにそのグループに仲間入りしていることになる。

日本における格差

 そもそもなぜそのような闇バイトや強盗に手を出してしまうのか。経済的な理由はもちろんだが、将来への不安、孤独感、承認欲求など様々な原因が考えられる。しかし、元を辿れば全ては「格差」から生まれているのではないかと考える。まずは「経済格差」。日本の国民総生産(GDP)はバブル崩壊後に成長が鈍化し、1997年をピークに減少している。その後、回復傾向の時期もあったがリーマンショックや東日本大震災などを経て、全体的には減少傾向にある。1960年代から1970年代にかけて、日本のジニ係数(各世帯の所得の差を示す指標)は減少傾向にあった。しかし、1980年代以降は緩やかに増加しています。現代の日本では相対的貧困率が増加しつつある。生死にかかわるほどの貧困である絶対的貧困ほどではないものの、社会の大多数よりも貧しい状態にある人々を相対的貧困と分類する。1965年には12%だった相対的貧困の割合が、2018年には15.4%(新基準では15.7%)に達した。これは6~7人に1人の割合で相対的貧困の状態にあることを意味する。経済格差が生じる原因のひとつに、非正規雇用の増加が挙げられる。非正規雇用とは正社員以外の雇用形態のことで、契約社員・派遣社員・パート労働者・フリーターなどが非正規雇用に含まれる。非正規雇用は1990年代に急増し、2005年には雇用全体の3分の1を占めるまでに増加した。そして、2021年には雇用者全体の4割に達している。『令和4年 厚生労働白書』では高齢者の継続雇用の増加や景気回復に伴い、女性を中心としたパート労働者の増加などが非正規雇用増加の理由であるとしている。

 ではなぜ「経済格差」が生まれるのか。その原因は「教育格差」に他ならない。教育格差とは、経済状況、地域、出身学校など、様々な要因によって、人々が受ける教育の機会や質に差が生じることをいう。その教育格差が直接的にもたらす影響に「学力格差」がある。学力格差が生じる背景にはさまざまな要因があるが、代表的なものとしては次の2つがあると言われている。1つは、家庭環境によるもの。もう1つは、地域の環境の違いによるものだ。家庭環境に関しては、教育にかけるお金の多少によって、高等教育への進学やそれに必要な学費や生活費、そこに至るまでの習い事や通塾費などに差が生じるという経済的な背景がある。それとは別に、保護者が子どもの教育に熱心かどうかや、家庭の中に本がたくさんある、家族との豊かな会話があるなどの文化的な背景もある。もう一方の地域の環境による違いについては、例えば都市部と地方部とでは教育機会の多少に差があり、それによって進学機会や塾・習い事などの選択肢が異なっている状況などを指すことがある。文部科学省が毎年行う全国学力テストのデータをもとに、お茶の水女子大学の研究チームが分析した結果、「家庭が裕福な児童生徒の方が各教科の平均正答率が高い傾向が見られる」というものであった。この知見そのものはもちろん重要なのだが、より重要なことは、日本の学力格差の様相が国家的規模で明らかにされ、(委託研究ではあるものの)文部科学省の名において公表された、という2つの事実である。さらに、小学3年次において、すでに親学歴による学力格差が観測され、学年(年齢)の上昇とともに学力格差が拡大していくことも示された。

 つまり、家庭環境が生む経済格差や教育格差、学力格差が、闇バイトや詐欺、強盗に手を染めてしまう大きな原因になっている。

海外での格差

 ここで、海外における格差も見てみよう。世界銀行の統計データによる世界のジニ係数を比較したランキングでは、1位が南アフリカ(ジニ係数0.62)、主要国を挙げると次いでブラジル(0.48)、アメリカ(0.4)、イギリス(0.37)、韓国(0.34)、日本(0.33)となっている。イギリスでは、公立学校間の格差が凄まじく、住んでいる地域によっては刑務所帰りの生徒がいたり、ナイフで生徒同士が抗争を繰り広げたり、学校の周りで麻薬の取引が行われていたりする。ジニ係数が0.37のイギリスがこのような状況であれば、それより数字の高いアメリカやブラジルなどの国はさらに厳しい状況があることは想像に容易い。実際に、ブラジルやメキシコなどでは、極度の経済格差が原因で貧困層が麻薬取引やギャング活動に加わるケースが多発している。これにより暴力犯罪が増加し、社会全体の治安が悪化している。また、南アフリカでは、窃盗や強盗などの犯罪が頻発しており、富裕層は高いセキュリティ対策を余儀なくされている。さらに、海外では自国の問題と併せて移民の流入も関わり複雑化している。

 このような経済格差を生む原因のひとつに、やはり「教育格差」がある。農村部では学校や教育インフラが不足している場合が多く、教員の数や質も都市部に比べて劣ることが一般的だ。例えば、アフリカの一部地域では、生徒が教科書や基本的な学習資料にアクセスできないことが多い。また、南アジアやサハラ以南のアフリカでは、子どもたちが家庭の収入を補うために労働に従事することが多い。そもそも教育を受ける状況にない国や地域があるのが実際だ。それとは別に格差を生むシステムになっていることもある。例えば、イギリスでは、小学生の段階でダメな生徒は他の生徒が通常授業を受けている間、「特殊授業」に出席し、超簡単なスペリングや算数を復習している。日本の幼稚園年長にあたる年齢から全国統一試験があって、偏差値が出る。そのデータを元に教育施策を作り、子どもの進学や将来の収入まで大まかに推測できてしまう。出来る者を伸ばし、出来ない者を切り捨てるというシステムはそのまま「格差」に繋がる。このような考え方で教育や社会保障などの方針を出している国は他にも存在する。

親が子どもにできること

 ではこの格差をなくし、子どもたちが闇バイトや詐欺に安易に手を出すことなく、幸せな人生を送っていくために親ができることはなんだろうか。幼少期に身につけておけば「人生の土台」となる力を、小学校3〜4年生である10歳までに伸ばしてあげたい。そのために、好奇心を育む、遊びを通して学ぶ、生活リズムを整える、ポジティブな環境づくりなど、この時期に、親にしか出来ない子どもへの関わり方がある。

好奇心を育む:

  • ①絵本の読み聞かせで言語能力を育てるだけでなく、想像力や物語を理解する力を養う。
  • ②質問を大切にして、子どもの「なぜ?」に丁寧に答えたり、一緒に調べたりする。
  • ③公園、動物園、博物館、自然など多様な体験を一緒にして、新しい発見を促す。

遊びを通して学ぶ:

  • ①パズルやブロック、積み木、ボードゲームなど、論理的思考力や問題解決力を高める遊びを取り入れる。
  • ②音楽やリズム遊びなど記憶力や集中力を高める遊びを取り入れる。
  • ③ごっこ遊びなど社会性や人間関係形成能力を高める遊びを取り入れる。

生活リズムを整える:

  • ①十分な睡眠をとり、脳の発達を促す。
  • ②バランスの取れた食事で体と心を育む。
  • ③適度な運動で血流を良くし、集中力を高める。

ポジティブな環境づくり:

  • ①チャレンジしようとする姿勢を認め、失敗を恐れさせない。
  • ②子どもが「できた!」と感じられる成功経験をたくさん積ませる。
  • ③親自身が、読書をする姿や新しいことに挑戦する姿勢を見せることで、学ぶことの楽しさを伝える。

 他にもできることはたくさんあるが、何より大事なことはタイミングだ。子どもが10歳を超えてから必死に関わろうとしても「時すでに遅し」だ。子どもの10年間は取り戻すことができない。だから、ゴールデンエイジの間に、両親はもちろん、多くの大人が関わって子どもたちの成長を促していかなければいけない!

引用・参考

NHK 首都圏ナビ   https://www.nhk.or.jp/shutoken/articles/101/015/45/

Spaceship Earth https://spaceshipearth.jp/economic-disparity/

ベネッセ教育情報   https://benesse.jp/educational_terms/1.html

SYDONOS      https://synodos.jp/opinion/education/22176/#google_vignette

セカイハブ     https://sekai-hub.com/statistics/wb-gini-index-ranking#google_vignette

世界のニュースを日本人は何も知らないシリーズ    谷本 真由美

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この記事を書いた人

広島県呉市出身
呉市の中学校、高等学校を経て広島の大学へ。
地元に貢献しようと、これまでの教育・運動・スポーツに携わってきた経験を活かして独自の考え方で子供たちを育成している。

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